交通事故で被害者請求はすべき?手続きの方法や必要書類、限度額もわかる

更新日:

medical 0903 8

新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。

「被害者請求」とは、慰謝料・損害賠償金を請求する方法のひとつですが、必ずしもしなければならないものではありません。そのためこの記事では、被害者請求とはどのようなものなのか、どのような場合にするべきなのかを解説していきます。

とくに、被害者側の過失割合が大きくなりそうな方や早く示談金が必要な方、加害者が任意保険に入っていない方はしっかりチェックしてください。

交通事故の被害者請求とは

まずは、交通事故の被害者請求とはどのようなものなのか、混同されやすい他の制度との違いも合わせて紹介していきます。

加害者の自賠責保険に直接請求すること

交通事故の被害者請求とは、慰謝料や損害賠償金を加害者側の自賠責保険に直接請求することで、自動車損害賠償保障法第16条で保障された被害者の権利です。

第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。

自動車損害賠償保障法第16条

交通事故の慰謝料や損害賠償金には、「加害者側の自賠責保険会社から支払われる部分」と、「加害者側の任意保険会社から支払われる部分」とがあります。

一般的にはすべてまとめて加害者側の任意保険会社から受け取るのですが、被害者請求によって自賠責保険からの支払い分を直接自賠責保険から受け取ることもできるのです。

任意の保険会社と自賠責保険の関係
自賠責保険車を運転する人に加入が義務付けられている保険。
交通事故の被害者に対して、最低限の補償を行う。
任意保険車を運転する人が任意で入る保険。
自賠責保険からの支払額では足りない部分を補てんする。

被害者請求のメリットについてはのちほど説明しますが、ここで簡単に紹介しておくと、以下の通りです。

  • 被害者側の過失割合が大きい場合には、被害者請求をした方が受け取れる金額が多くなる
  • 被害者請求をすれば、自賠責保険の支払い分に限っては示談成立前でも受け取れる

加害者請求との違い

加害者請求とは、加害者が、加害者自身の自賠責保険会社に損害賠償金を請求することを言います。
加害者本人が被害者に対して慰謝料や損害賠償金を支払った場合、加害者は、被害者に支払った金額を限度に保険金の支払いを自賠責保険に請求できるのです。

仮渡金制度との違い

被害者請求とよく似た制度に、「仮渡金制度」というものもあります。
どちらも加害者側の自賠責保険会社に直接お金を請求するものですが、もらえる金額や、請求してからお金が振り込まれるまでの期間に違いがあるので、表にまとめます。

仮渡金制度被害者請求
金額40万、20万、5万円のいずれか。
傷害の程度により決まる。
死亡の場合は290万円。
自賠責基準で計算された金額。
期間請求から1週間程度請求から1ヶ月程度

自賠責基準で計算された金額については後から解説しますが、仮渡金制度よりも被害者請求で受け取れる金額の方が大きいこともあるので、よく比較・検討することが大切です。

また、仮渡金が最終的に受け取れる慰謝料・損害賠償金をこえてしまった場合は、あとから超過分を返金しなければならないので注意しましょう。
被害者請求なら、あとから返金が必要になることはありません。

後遺障害認定における被害者請求

ここまで紹介してきた被害者請求は、加害者側の自賠責保険会社に対して直接慰謝料や損害賠償金を請求することを指します。ただ、後遺障害認定の申請方法を指して「被害者請求」ということもあるので、こちらについても紹介しておきます。

後遺障害認定

交通事故によって残った後遺症に対して後遺障害等級を認定すること。等級が認定されれば、「後遺障害慰謝料」がもらえる。

後遺障害認定における被害者請求とは、加害者側の自賠責保険会社を介して認定審査の申請を行うことを言います。もうひとつ、事前認定という方法もあり、どちらを選ぶかは自由です。

被害者請求の流れ
事前認定の流れ

被害者請求では提出書類をすべて自らそろえるので手間がかかりますが、その分審査の対策を行いやすくなります。書類集めは弁護士にもサポートしてもらえるので、確実に適切な等級に認定される勝算がある場合以外は被害者請求を選択することがおすすめです。

なお、傷害分の慰謝料や損害賠償の請求は加害者請求で行い、後遺障害認定のみ被害者請求で行うことも可能です。

後遺障害認定における被害者請求・事前認定については、『後遺障害認定の手続きはどうすればいい?具体的な申請方法と認定のポイント』の中で解説しています。

まとめ

  • 被害者請求とは、加害者側の自賠責保険会社に直接慰謝料・損害賠償金を請求すること。
  • 通常は、加害者側の任意保険会社がすべての慰謝料・損害賠償金を一括して被害者に支払う。
  • 似た制度として、仮渡金制度がある。

被害者請求でもらえる項目・金額

つづいて、被害者請求でもらえる慰謝料・損害賠償金の内訳や金額について見てきましょう。

請求できる項目・金額は限られている

まず注意しなければならないのが、被害者請求で受け取れるのは人身に関する慰謝料・損害賠償金のみであるということです。そもそも物損に関する損害賠償金は自賠責保険の補償範囲外なので、被害者請求では受け取れないのです。

では、具体的に被害者請求で受け取れる項目を見ていきましょう。また、自賠責保険から受け取れる金額には限度額があるのでそれも合わせて紹介します。
限度額を超える部分については、加害者側任意保険会社から支払われます。

傷害に関するもの

治療関係費通院交通費、入院雑費、看護料、治療費等
入通院慰謝料治療の過程で生じた精神的苦痛に対する補償
休業損害治療のため休業していた間の収入に対する補償

限度額:合計120万円

後遺障害に関するもの

後遺障害慰謝料後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する補償
逸失利益後遺障害により減ってしまった生涯収入に対する補償

上限額:後遺障害等級により、以下の表の通り。

等級 限度額
要介護
1級
4000万円
要介護
2級
3000万円
1級3000万円
2級2590万円
3級2219万円
4級1889万円
5級1574万円
6級1296万円
7級1051万円
8級819万円
9級616万円
10級461万円
11級331万円
12級224万円
13級139万円
14級75万円

死亡に関するもの

死亡慰謝料死亡した被害者と遺族の精神的苦痛に対する補償
逸失利益死亡により減ってしまった生涯収入に対する補償
葬儀費通夜や葬儀などの費用

限度額:合計3000万円

請求できる金額の計算方法

被害者請求で受け取れるのは、「自賠責基準」という方法で計算された慰謝料・損害賠償金額です。この計算方法は自動車損害賠償保障法令によって定められています。
実費以外の項目について、計算方法を簡単に見ていきましょう。

入通院慰謝料4300円×入通院日数*
休業損害原則6100円/日
後遺障害慰謝料参考1の表参照
逸失利益
(後遺障害・死亡)
参考2の計算機参照
死亡慰謝料本人分:400万円
遺族分:550万円~750万円
※遺族が不要に入っていた場合は+200万円

*入通院日数は、「(入院日数+実通院日数)×2」と「入院日数+通院期間」のうち短い方
慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して決まります。

参考1

後遺障害慰謝料の金額

等級 保険金額
1級
要介護
1650万円
2級
要介護
1203万円
1級1150万円
2級998万円
3級861万円
4級737万円
5級618万円
6級512万円
7級419万円
8級331万円
9級249万円
10級190万円
11級136万円
12級94万円
13級57万円
14級32万円

参考2

後遺障害逸失利益・死亡逸失利益は以下の計算機で確認できます。
ただし、その他の項目については「弁護士を立てて示談交渉をした場合」の相場額(弁護士基準・裁判基準と呼ばれる)であり、被害者請求でもらえる金額ではないのでご注意ください。

自賠責基準の詳細、弁護士基準(裁判基準)や加害者側任意保険会社が示談交渉で提示してくる金額(任意保険基準)については『交通事故|示談金の計算方法を解説!自動計算機で即確認もできる』で解説しています。

まとめ

  • 被害者請求でもらえるのは、人身に関する慰謝料・損害賠償金のみ。
  • 被害者請求でもらえる金額には上限があり、上限を超える部分は加害者側の任意保険会社が支払う。

被害者請求するとメリットが大きい3ケース

被害者請求をして自賠責保険の支払い分と任意保険の支払い分を別々に受け取るか、任意保険会社からすべて一括で支払ってもらうかは被害者自身で選べます。
そこでここでは、被害者請求をするとメリットが大きいケースを3つ紹介します。

該当する場合は、被害者請求を検討してみてください。 

被害者側の過失割合が大きい

過失割合とは、交通事故が起こった責任が加害者と被害者それぞれにどれだけあるかを割合で示したものです。
被害者にも過失割合が付いた場合、基本的にはその割合分、慰謝料や損害賠償金が減額されてしまいます。これが、「過失相殺」です。

しかし、被害者請求をすると、自賠責保険からの支払い分に関しては減額率が以下のように少なく済みます。

(1)ケガに対する支払い

過失割合減額率
7割未満減額なし
7割以上10割未満2割減額

(2)後遺障害が残った・死亡したことに対する支払い

過失割合減額率
7割未満減額なし
7~8割未満2割減
8~9割未満3割減
9~10割未満5割減

任意保険会社に一括して支払いを請求した場合、自賠責保険からの支払い分も含めてすべて過失割合と同じ割合減額されてしまうので、特に過失割合が大きい場合には、被害者請求をした方がメリットが大きいです。

早く賠償金が必要

交通事故の慰謝料や損害賠償金は、基本的に示談成立後に受け取ります。示談交渉を通して金額が決められるからです。
しかし、自賠責保険からの支払い分は自動車損害賠償保障法令にのっとった方法で決められるので、示談交渉をしなくても決められます。よって、自賠責保険からの支払い分に関しては、示談成立前でも被害者請求によって受け取れるのです。

  • 交通事故にあい、仕事ができずにいるけれど日々の生活費はかかってしまう。
  • こんな時に限って、大きな出費がある。

そんな場合は、被害者請求によって一足早く慰謝料や損害賠償金の一部を受け取ることがおすすめです。

なお、治療費や休業損害は、示談交渉前でも治療や休業と並行して支払われることが多いです。

加害者が任意保険に未加入でも安心

加害者が任意保険に入っていない場合、慰謝料・損害賠償金は次のように受け取ります。

  • 自賠責保険からの支払い分:被害者請求により自賠責保険会社から直接支払ってもらう
  • 本来任意保険から支払われる分:被害者本人から支払ってもらう

加害者が任意保険に入っていない場合、資力によっては慰謝料・損害賠償金が分割で支払われたり、支払いを踏み倒されたりする可能性があります。
しかし、被害者請求をすれば自賠責保険の支払い分は確実に一括で受け取れるので安心です。

加害者が任意保険に入っていない場合は、示談書を公正証書にしたり、加害者側に連帯保証人を立てたりしておくと安心です。詳しくは、『交通事故の示談書|記載項目やテンプレを紹介!トラブルの予防方法もわかる』で解説しています。

まとめ

被害者請求は、次の場合にするべき。

  • 被害者側の過失割合が大きい場合
  • 早く示談金が必要な場合
  • 加害者が任意保険に入っていない場合

被害者請求の方法

では、どのようにしたら被害者請求ができるのか、その方法を解説していきます。必要書類やタイミングについても詳細にわかるので、確認してみてください。

この流れで被害者請求ができる

被害者請求の流れは、以下の通りです。

  1. 加害者側の自賠責保険会社に連絡をして、請求書を送ってもらう
  2. 請求書に必要事項を書き、必要書類をそろえて自賠責保険会社に送る
  3. 自賠責保険会社から損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)に書類が渡り、事故状況や生じた損害などについて調査が行われる
  4. 調査結果の報告を受けた自賠責保険会社が、自賠責保険が支払う慰謝料・損害賠償額を計算し、被害者に支払う

被害者請求を行う場合には、相手方の自賠責保険会社がどこなのかわかっていなければなりません。基本的には「交通事故証明書」を確認すればわかりますが、確認してもわからない場合には弁護士にご相談ください。
弁護士照会という方法で調べられます。

加害者が自賠責保険未加入・ひき逃げの場合

自賠責保険は強制加入ですが、ごくまれに自賠責保険に入っていないこともあります。また、ひき逃げの場合には加害者そのものがわからないので、被害者請求自体が不可能です。

こうした場合は政府の保障事業を利用してみましょう。指定された損害保険会社から「請求キット」を取り寄せて請求書類を作成し、同じく指定された損害保険会社に提出してください。

詳しい流れは損害保険料率算出機構の公式ホームページで確認できます。

被害者請求での必要書類

被害者請求で必要になる書類は、以下の通りです。

  • 保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書、事故発生状況報告書
    加害者側の自賠責保険会社から取り寄せて記入する
  • 通院交通費明細書
    加害者側の自賠責保険会社から取り寄せて記入する
    タクシーで通院した場合は領収書を用意する
  • 休業損害証明書
    加害者側の自賠責保険会社から取り寄せ、勤務先に書いてもらう
    給与所得者なら源泉徴収票、個人事業主なら納税証明書・課税証明書・確定申告書も添付
  • 付添看護自認書
    加害者側の自賠責保険会社から取り寄せて記入する
    ただし、医師により付き添いが必要だと判断された場合のみ
  • 人身事故証明書入手不能理由書
    警察で物損事故として処理されている場合には、加害者側の自賠責保険会社から取り寄せ、加害者に記入してもらう
  • 後遺障害診断書
    加害者側の自賠責保険会社から取り寄せ、病院の医師に書いてもらう
  • 診断書、診療報酬明細書
    受診した医療機関で作ってもらう
    死亡事故であれば死体検案書
  • 施術証明書・施術費明細書
    整骨院や接骨院に行った場合は、かかった先で作ってもらう
  • 交通事故証明書
    車検証や自賠責保険証明書の内容が記載されている
    自動車安全運転センターで発行
  • MRI画像やレントゲン写真等
  • 印鑑証明書
    市区町村役場で取り寄せる
    請求者が未成年者であれば代わりに住民票・戸籍抄本が必要。
  • 戸籍謄本
    死亡事故の場合のみ必要
    本籍地の市区町村役場で取り寄せる
  • 委任状・委任者の印鑑証明書
    代理人に被害者請求をお願いする場合は、市区町村役場で取り寄せる

書類の数が非常に多いですが、弁護士に依頼すれば書類集めを代わりに行ってもらえます。書類への記入内容に不備はないかも確認してもらえるので、気軽にご相談ください。

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被害者請求には請求期限がある?

被害者請求には時効があり、以下の通りです。

人身事故
(後遺障害なし)
事故翌日から3年以内
人身事故
(後遺障害あり)
症状固定の翌日から3年以内
死亡事故死亡した翌日から3年以内

上記の時効に間に合いそうにない場合は時効の成立を阻止する方法もあるので、弁護士に相談してみてください。

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まとめ

  • 被害者請求をするためには、必要な書類を集めて加害者側の自賠責保険会社に提出する。
  • 書類集めは弁護士にも協力してもらえる。
  • 被害者請求できる期間には時効がある。

被害者請求で弁護士に相談するメリット

被害者請求は被害者本人による手続きも可能ですが、弁護士の協力を得るメリットもあります。そこでここでは、弁護士に協力を依頼するメリットを確認していきましょう。

面倒な手続きが省ける

弁護士は被害者請求の手続きを代わりに行えるので、被害者の手間が省けます。
交通事故後の被害者は精神的にも身体的にも大変な状況にあることが多いので、弁護士に任せられる部分は任せることも大切です。

弁護士に依頼をすれば、被害者請求だけではなくその後の加害者側との示談交渉も代わりに行ってもらえます。

残りの示談金も早く受け取れる

弁護士に依頼をすれば、加害者側との示談交渉も行ってもらえ、被害者側の主張が通りやすくなるので、もめて話し合いが長引くことも避けられます。

その結果、任意保険会社の支払い分である残りの慰謝料・損害賠償金も早く受け取れるのです。

示談金の総額が多くなる

被害者請求と合わせて示談交渉も弁護士に依頼すると、示談金の総額が多くなります。
示談金のうち、自賠責保険会社の支払い分は自動車損害賠償保障法令で決められた方法によって計算されるので交渉の余地はありません。しかし、任意保険会社の支払い金額は交渉によって決まるので、うまくいけば加害者側の提示額よりも大幅に高い金額が獲得できます。

実際、弁護士なら加害者側が提示する慰謝料の2倍~3倍もの金額を主張できるので、その分慰謝料アップの可能性も高くなるのです。

まとめ

  • 被害者請求を弁護士に依頼すると、手間が省ける。
  • 弁護士の協力を得ると、残りの慰謝料・損害賠償金も早く受け取れるうえ、金額がアップする可能性がある。

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監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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