交通事故の被害者になったら|事故直後の対応から解決まで解説

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新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。

ある日突然交通事故の被害に遭ってしまったが、警察への届け出、加害者の保険会社との慰謝料の交渉など、どのように進めていけばよいのかわからない。

そんな方は決して少なくありません。

治療費はいつ支払われるのか、ケガで仕事を休んでしまったけれど給料はどうなるのか、適切な対応ができず示談交渉で不利になってしまうのではなど、様々な不安も感じることでしょう。

この記事を読めば、事故に遭った直後から解決までの流れや、交通事故の被害者が知っておくべき基礎知識がわかります。

あなたの不安や悩みを解消する一助になれば幸いです。

交通事故の被害に遭った直後に対応すること

加害者に3つの事項を確認する

交通事故の被害に遭い、ケガ人の救護や交通事故現場の安全の確保、警察への連絡が終わったら、次に加害者の情報を確認しましょう。損害の賠償を適切に行ってもらうために、確認しておくべきことは次の3つです。

  • 加害者の住所と氏名
  • 加害者の車両の所有者やナンバー
  • 加害者が加入している任意保険会社

(1)加害者の住所と氏名

加害者の住所や氏名は、口頭で確認するだけではなく、免許証の写真を撮ったり、仕事先の名刺をもらったりするようにするとよいでしょう。

(2)加害者の車両の所有者やナンバー

加害者の車両の所有者やナンバーを確認しましょう。可能ならば車検証も見せてもらうのが望ましいです。

また、加害者が他人の車を運転していた場合は、車の所有者に対しても損害賠償を請求できる場合があります。車の所有者名や運転目的、通常の使用状況も確認しておきましょう。

(3)加害者が加入している任意保険会社

加害者が加入している任意保険会社を確認し、 可能ならば任意保険証を見せてもらって写真に残すことをおすすめします。

もし加害者が任意保険会社に加入していない場合は、自賠責保険会社を確認し、自賠責保険証明書を見せてもらいましょう。

目撃者にも連絡先を確認するとよい

事故の目撃者がいるならば、目撃者の氏名や連絡先を確認し、事故の捜査への協力を依頼しましょう。警察に目撃者がいることを伝えておくことも大切です。示談交渉や裁判で事故当時の状況が争点になったときに、目撃者の証言が重要になります。

すぐに治療を始める

事故の対応が終わったら、病院へ行って診察を受けましょう。

ケガがないように思える場合や、軽傷に思えるときも、念のために医師に診てもらうことが大切です。また、気になる症状があれば些細なことでもすべて医師に伝えましょう。

治療をはじめるのが遅いと、因果関係を疑われることも

すぐに治療をはじめなかった場合、その後に気になる症状が出てきたとしても、時間の経過により事故との因果関係を疑われることがあります。事故との因果関係が証明できず、保険会社から治療費の支払いを拒否されることもありますので、事故発生後はすみやかに病院に行って医師の診察を受けることが大切です。

警察に人身事故として報告する

交通事故が発生したら、必ず警察に届け出ましょう。

このとき、医師に発行してもらった診断書をあわせて提出し、人身事故扱いにしてもらうことが大切です。

人身事故として届け出ることで、警察に事故の状況を記録した刑事記録(実況見分調書)を作成してもらえます。

物損事故扱いに誘導されても屈しない

警察によっては、人身事故ではなく物損事故扱いにしようと誘導してくるケースも残念ながら存在します。

物損事故の場合、簡易な刑事記録(物件事故報告書)しか作成されません。そのため、後に示談金の交渉をする際に自身の主張の証拠が乏しくなり、主張内容の証明が困難になる可能性が高くなります。

既に物損事故として受理されている場合は、すぐに人身事故に切り替えてもらうことをおすすめします。

物損事故と人身事故の違いや、物損事故から人身事故の切り替えについては『物損事故を解説|人身事故との違いは?切り替えた方がいい?』をご参照ください。

事故の捜査に協力する

被害者も警察から事故の捜査に協力することが求められます。具体的には警察署で事故の状況を尋ねられる、事故現場で現場検証(実況見分)に立ち会うなどです。

捜査に協力するときは、自分の記憶に沿って、事故状況を時系列で正直に伝えましょう。

交通事故発生から解決までの流れ

交通事故発生直後の対応を終えたあと、どのように解決に至るかを一度確認しておきましょう。

交通事故の流れを解説

交通事故発生から解決に至るまでの流れ

  1. 交通事故直後の対応を行う。
  2. 通院や入院などで治療する。
  3. 完治または症状固定となる。
  4. 後遺症がある場合、後遺障害認定を申請する。
  5. 損害賠償金の示談交渉を行う。
  6. 示談がまとまらなければ裁判や調停を行う。
  7. 損害賠償金の金額が決まり、支払われる。

ここから先は、解決までの流れの中でやるべきことや理解しておくべきことを解説します。

治療中に行うことと知っておくべきこと

一定期間の治療費は基本的に加害者側の任意保険会社が全額負担

多くの場合、事故で受けたケガを治療するときは、一定期間の治療費を加害者側の任意保険会社が全額負担してくれます。

加害者側の任意保険会社が治療費を全額負担してくれるのは、基本的に症状固定されるまでとなります。ケガの程度にもよりますが、症状固定となるのは事故後3か月~6か月ほどの場合が多いようです。

症状固定後は、治療費は基本的に自己負担となります。

症状固定とは?

症状固定とは、 治療を続けても大幅な改善が見込めなくなったと判断される状態のこと。

会社を休んだ場合は休業損害の請求をする

事故で会社を休まざるを得なくなった場合は、休業損害として、事故がなければ得られたと思われる給料等のお金を加害者に請求することができます。

自身の勤務先に「休業損害証明書」を発行してもらい、加害者側の保険会社に請求を行いましょう。

休業損害については『交通事故の休業損害はいくらもらえる?計算方法や事例を紹介』の記事で詳しく紹介しています。

物損部分の示談は治療終了前に行われることが多い

修理代や代車料などの物損の被害は、基本的に人損の被害とは別に手続きが行われます。

被害者のケガの状態が落ち着いた頃に、加害者側の保険会社から物損の被害についての示談交渉が持ちかけられることが多いので、覚えておきましょう。

なお、被害者側にも過失があった場合は、保険会社は過失割合について加害者側の主張をします。過失割合については安易に応じず、自分の主張を通すように心がけましょう。

過失割合とは?

過失割合とは、被害者と加害者のどちらに、どのぐらい事故をおこした責任があるかの割合のこと。

後遺症が残った場合は後遺障害等級認定を受ける

ケガが完治せず症状固定に至った場合は、後遺障害等級の認定を受け、後遺障害に関する損害賠償を請求するようにしましょう。

後遺障害認定を受けることで得られる損害賠償

後遺障害等級が認定されれば、「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」を加害者側に請求できます。

(1)後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことで、今後精神的苦痛を受け続けることに対する補償です。

後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害等級に応じて決まります。

(2)逸失利益

逸失利益とは、後遺障害が残ったことで労働能力が低下し、生涯年収が減ったことに対する補償です。

逸失利益の金額は、後遺障害等級ごとの労働能力喪失率や事故前の年収、症状固定時の年齢などによって決まります。

後遺障害慰謝料と逸失利益の計算方法は、『交通事故の後遺障害が認定されたら貰えるお金|後遺障害慰謝料と逸失利益』の記事で解説していますので、詳しく知りたい方はご一読ください。

後遺障害等級認定には2つの申請方法がある

後遺障害等級の認定には、「事前認定」と「被害者請求」の2つの申請方法があります。

(1)事前認定

事前認定は、加害者側の保険会社が後遺障害の申請を行う方法です。

被害者側は後遺障害診断書を主治医に作成してもらい、加害者側の保険会社に送付するだけで手続きを完結できます。

ただし、加害者側の保険会社は損害賠償額が上がると支払金額が増えて困るので、後遺障害等級が認定されるような工夫は行ってくれないのが実情です。

(2)被害者請求

被害者請求は、被害者自らが申請手続きを行う方法です。

事前認定に比べて手間はかかりますが、自ら工夫して申請できるので、納得できる認定結果が得られることが多いです。

なお、弁護士に依頼すれば、提出書類の収集に手間がかかるなどのデメリットはなくなります。また、後遺障害等級認定に強い弁護士ならば、より満足できる認定結果に向けてサポートしてくれるでしょう。

後遺障害等級の認定で不安があれば、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

示談金の交渉を行う

後遺障害等級が認定されたら、損害額を計算して示談交渉を行います。

示談交渉の相手は、基本的に加害者側の保険会社になります。任意保険には「示談代行制度」という保険サービスがついており、保険会社の担当者が示談交渉の窓口として対応することになっています。

加害者側が加入する保険の種類|前提知識

前提知識として、加害者側が加入している保険の種類について確認しておきましょう。

(1)自賠責保険

自賠責保険とは、すべての車の運転手に加入が義務付けられている保険であり、被害者が最低限の補償を受けられることを目的としています。

そのため、被害者が自賠責保険から得られる賠償額には上限があります。

(2)任意保険

任意保険は、車の運転手が任意で加入する保険であり、自賠責保険では補償しきれない部分を補てんすることを目的としています。

補償の内容は保険によって異なります。

示談金の算定には3つの基準がある

交通事故の示談金には、算定者によって3つの基準があります。示談交渉にあたって、どのような基準があるか確認しておきましょう。

(1)自賠責保険の基準

加害者側の自賠責保険が用いる算定基準であり、被害者に補償される最低限の金額になります。

(2)任意保険の基準

加害者側の任意保険会社が用いる算定基準であり、各保険会社ごとに異なりますが、自賠責基準とほぼ同じか少し高額な程度と言われています。

被害者が直接任意保険会社と交渉する場合は、基本的に任意保険基準の金額が提示されます。

(3)弁護士基準・裁判所基準

弁護士や裁判所が用いる算定基準であり、交通事故の民事訴訟で用いられる過去の判例を基にした相場額になります。

弁護士基準は3つの基準の中で最も高額であり、任意保険基準の2倍~3倍の金額になることが多いです。被害者自身の交渉で弁護士基準まで増額するのは難しいので、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。

示談金には様々な費用が含まれる

示談金の主な内訳は下記のとおりです。

  • 治療費
  • 通院交通費
  • 看護料
  • 入院雑費
  • 診断書作成費等
  • 休業損害
  • 入通院慰謝料
  • (後遺障害等級認定がなされた場合)後遺障害慰謝料
  • (後遺障害等級認定がなされた場合)逸失利益

示談金はいつ支払われるか

示談金は加害者側の保険会社と交渉し、示談が成立してからようやく支払われることになります。

よって、なかなか合意に至れないと、損害賠償金の受け取りまで時間がかかることになります。

「被害者請求」という手続きを行えば、示談成立前に損害賠償金の一部を受け取ることができるので覚えておきましょう。被害者請求については、下記の項目で解説します。

加害者側から満足な補償が受けられないときの対応方法

ここでは、示談交渉を行ったものの加害者側から満足できる補償が得られなかった場合の対応について解説していきます。

保険会社に支払いを拒否されたら自賠責保険に直接請求する

加害者が任意保険の利用を自己都合で断ったなどの理由で、加害者側の保険会社に損害賠償金の支払いを拒否されてしまうことがあります。

任意保険会社に支払いを拒否された場合は、加害者側の自賠責保険に直接損害賠償金を請求しましょう。これを「被害者請求」と言います。

被害者請求で請求できる項目は下記のとおりです。

  • 治療関連費
  • 休業損害
  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 逸失利益

なお、請求できる金額は「治療関連費」「休業損害」「入通院慰謝料」は合計120万円まで、 「後遺障害慰謝料」「逸失利益」は認定された等級に応じて合計75万円~4,000万円までになります。

被害者が自身の保険を活用して治療費を支払う

前述したように、自賠責保険の支給額は上限が決まっています。上限を超えてしまう場合は、自身の保険を活用するとよいでしょう。

また、過失で争いがある場合、加害者側の保険会社が損害額を全額支払ってくれないことがあります。その場合も自身の保険を確認し、適用できるものがないか調べてみましょう。

なお、交通事故の被害者になったおきに利用できる保険や請求の流れについては『交通事故で使える保険の種類一覧|請求の流れについても解説』の記事でも詳しく解説しています。

被害者側の保険のうち、特に重要なものを3つ紹介します。

(1)人身傷害補償保険

人身傷害補償保険は、被保険者とその家族が交通事故で死傷した場合に利用できる保険です。

加害者が自賠責保険のみに加入していた場合は、損害賠償金から自賠責保険で補償される金額を差し引いた不足部分が人身傷害補償保険から支払われることになります。

また、人身傷害補償保険は過失割合の影響を受けないのも大きな特徴です。

ただし、支払われる保険金の金額は、先述の弁護士基準ではなく保険会社の支払い基準に基づきます。

(2)搭乗者傷害保険

搭乗者傷害保険は、被保険者の運転による事故で、同乗していた人が死傷した場合に利用できる保険です。被害者が被保険者の家族でなくても適用することができます。

ただし、支払われる金額は一定で、あまり高額ではないことが多いです。

(3)無保険車傷害保険

加害者が任意保険に加入していない場合や、ひき逃げなど加害者が不明な場合の事故で、死亡したり後遺障害を被った場合に利用できる保険です。

無保険車傷害保険の補償内容は契約の内容に従うので、自分の契約を確認しておきましょう。

労災保険や健康保険も活用できる

被害者が任意で加入している保険の他に、労災保険や健康保険も活用できます。

労災保険は業務中や通勤中の事故に使う

業務中や通勤中に事故に遭った場合、労災保険からは治療費と「(業務災害の場合)休業補償給付」または「(通勤災害の場合)休業給付」が支払われます。

休業補償給付または休業給付では、交通事故によって被った休業損害額の6割が支払われます。また、別途「休業特別支給金」として休業損害額の2割が支給されます。

ただし、休業補償給付または休業給付は、自賠責保険と二重取りをすることはできません。自賠責保険から休業損害が支払われる場合は、労災保険からは自賠責保険の支払額を差し引いた金額を休業補償給付または休業給付として受け取れます。なお、休業特別支給金は自賠責保険からの支払いがあっても満額受け取れます。

健康保険は交通事故の治療にも使える

交通事故でケガを負った場合も、健康保険は利用できます。健康保険を利用すれば3割負担で治療を受けることができますので、必要に応じて活用しましょう。

ケガが事故の影響によるものか判断できないが治療したい場合や、被害者にも過失割合がある程度ある場合などは、健康保険の利用も検討した方がよいでしょう。

示談でまとまらなかったときの対応方法

交通事故の多くは「任意交渉」といって、加害者側の保険会社と被害者の交渉による示談で解決されます。

任意交渉がうまくまとまらなかった場合は、ADR機関を利用して調停を行ったり、裁判を起こしたりすることで解決を目指すこともできます。

ADR機関を利用して調停を行う

ADR機関とは裁判所以外で第三者の弁護士が仲裁などを行う場所を指します。

裁判を行うとどうしても解決までに時間がかかってしまいますが、ADR機関に相談すれば比較的短時間で解決できることが多いです。

交通事故に関するADR機関としては、「公益財団法人交通事故紛争処理センター」や「公益財団法人日弁連交通事故相談センター」などがあり、いずれも無料で利用することができます。

裁判を起こす

なかなか解決に至るのが難しいときは、裁判所の判断を仰ぐことも選択肢の一つです。

ただし、裁判は被害者本人ができないわけではありませんが、手続きが複雑なため弁護士に依頼する場合が多くなります。弁護士に依頼すると弁護士費用がかかるので、費用倒れにならないためにも、事前に無料相談などに相談してみましょう。

交通事故事故の被害者の方の法律相談窓口

ここまで交通事故の直後から解決までの流れをご紹介してきました。

しかし、治療や仕事などで忙しく、示談交渉や複雑な手続きなどに限界を感じる場合もあるかと思います。

また、示談金の増額や後遺障害の認定などで専門家のサポートを受けた方がよい場合もあるでしょう。

そんなときは弁護士へ相談することをおすすめします。

アトム法律事務所なら、交通事故の被害者の方からの法律相談を無料で受けることができます。

24時間365日いつでも相談の予約を受け付けていますので、お気軽にご連絡ください。

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監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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