交通事故の休業損害はいくらもらえる?計算方法や事例を紹介

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ishikisyougai

新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。

交通事故で負ったケガの治療のため仕事を休み、収入が減ってしまったときは、被害者は減った分の収入を「休業損害」として加害者側に請求することができます。

休業損害を請求できるのは、会社員や自営業として実際に収入を得ている方だけではありません。専業主婦の方や求職中の方も、休業損害を受け取れる場合があるのです。

この記事では、休業損害の計算方法を立場別に解説したうえで、実際に認められた休業損害の事例を紹介します。「私は休業損害を受け取れるの?」「どのくらい休業損害を受け取れるの?」と悩んでおられる方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。

休業損害の基礎知識

休業損害とは事故で仕事を休んだため失った収入のこと

交通事故でケガをしたとき、治療のために仕事を休む方は少なくありません。大工の方が手足にケガを負ったり、美容師の方が手指に麻痺を負ったりした場合など、職種によっては休む期間が長引くこともあるでしょう。

このように交通事故の影響で仕事を休む必要が生じると、その分収入が減ることが想定されます。交通事故の影響で休業したため失った収入のことを、休業損害と呼びます。

休業損害とはケガで働けず収入が減少する損害を被ったこと

なお、実際には収入を得ていない主婦の方も、休業損害を請求することが可能です。他にも学生や失業者などの方も休業損害が認められるケースがあります。どのような場合に認められるかや、どの程度の金額が認められるかは、のちほど解説します。

休業損害はいつ受け取れる?

休業損害は、必要書類を提出すれば、認められた金額を月ごとに受け取ることが可能です。なお、実際に受け取れるタイミングは必要書類の提出から約1週間後~2週間後となる場合が多いでしょう。

ただし、専業主婦のように実際に減収が生じていない場合は、示談交渉の際にまとめて請求することになります。

休業損害がもらえる時期

休業損害はいつまで受け取れる?

休業損害が受け取れるのは「就労不能期間」のうち、実際に休業した日数です。

就労不能期間とは、休業の必要性が認められる期間のことであり、医師の意見や被害者の業務内容などによって判断されます。事故のために休んだ期間がそのまま就労不能期間として認められるわけではありません。

就労不能期間は、交通事故発生日から完治あるいは症状固定の判断がされるまでの期間であることが多いです。

休業損害の計算方法|立場別に解説

休業損害は「基礎日額×休業日数」で計算します。

休業損害の基礎日額の算定方法は、算定者によって「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの基準を用います。

自賠責基準は交通事故被害者に補償される最低限の金額です。自賠責基準で算定するときの基礎日額は以下の表のとおりです。なお、民法の改正が行われたため、2020年3月31日以前に発生した事故と2020年4月1日以降に発生した事故では金額が異なります。

表:自賠責基準の基礎日額

2020年3月31日以前に発生した事故5,700円
2020年4月1日以降に発生した事故6,100円

任意保険基準の基礎日額については、自賠責基準と同額か、自賠責基準より少し高額な程度であることが多いため、この記事では解説しません。

弁護士基準では、被害者の立場(会社員、自営業など)によって基礎日額の算定方法が異なります。ここからは、以下の5つの立場について、弁護士基準でどのように基礎日額を算定するか確認していきましょう。

  1. 給与所得者(会社員、アルバイトなど)
  2. 事業所得者(自営業、フリーランスなど)
  3. 会社役員
  4. 主婦
  5. 失業者

(1)給与所得者(会社員、アルバイトなど)

給与所得者の基礎日額は「事故前3ヵ月分の給料の合計額÷出勤日数」で算出します。

事故前3ヵ月分の給料には、基本給のほかに資格手当や皆勤手当などの付加給も含まれます。ただし、賞与は含まれません。

事故前3ヵ月分の給料の合計額については、下記のような休業損害証明書を勤務先に発行してもらって証明するようにしましょう。

休業損害証明書の例

(2)事業所得者(自営業、フリーランスなど)

事業所得者の基礎日額は「事故前年の確定申告書に記載した所得÷365(日)」で算出します。

ただし、事故の前の売り上げが前年を大幅に上回ることが立証できるならば、基礎日額が上がることがあります。また、実際の所得より過少申告をしている場合は、預金通帳への入金額や領収書などで収入を立証できれば基礎日額が上がるかもしれません。

とは言え、証拠を提出しても加害者側に基礎日額の主張が認められないこともあります。その場合は、弁護士に相談するようにしましょう。

(3)会社役員

会社役員の休業損害は、一律に基礎日額の計算式に当てはめるのではなく、「役員報酬のうち労務対価部分の金額」から算出します。

会社役員が受け取っている役員報酬は、実質的に利益配当とみなされる金額を含むときがあります。利益配当分は休業しても減少しないため、休業損害として認められません。

労務対価部分として認められた例としては、以下のようなものがあります。

  • 被害者は土木会社の役員。
    現場監督やクレーン操作などに従事していたため、役員報酬が全額労務対価として認められた。
  • 被害者は親族が経営する会社の役員。
    実質的な営業活動を行っていたため、事故後の役員報酬の減少状況に照らし、役員報酬の70%が労務対価部分として認められた。
  • 被害者は一人会社の代表取締役。
    代表取締役がほぼ単独で業務を行っていたため、役員報酬が全額労務対価として認められた。

(4)主婦

主婦の基礎日額は「全国の女性の平均賃金÷365(日)」で算出します。

平均賃金は、「賃金センサス」という厚生労働省が毎年実施している統計に基づいた資料を参照します。参考までに、過去3年の全国の女性の平均賃金は下記のとおりです。

表:過去3年における全国の女性の平均賃金

平均賃金(年収額)
2019年3,880,100円
2020年3,819,200円
2021年3,859,400円

なお、主夫の場合も女性の平均賃金を参照して基礎日額を算出します。男性と女性で平均賃金が異なることから、公平を期すためにこのような措置が取られているのです。

(5)失業者

失業者のうち、就職活動をしている方や、すでに内定が出ている方は、休業損害が請求できる可能性があります。

失業者の基礎日額は「被害者の年齢や学歴に応じた平均賃金÷365(日)」で算出されることが多いです。

ただし、場合によれば失業前の収入額に基づいて算出されることもあります。また、内定が出ている場合は、職業ごとの賃金センサスや、内定先の給与推定額を基礎日額とすることもあるでしょう。

具体的にどの金額が基礎日額として認められるか知りたい場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。

こんなとき休業損害は請求できる?実際にあった事例5選

ここまでは、休業損害の基本的な計算方法を立場別にご紹介してきました。

交通事故の被害に遭われた方の中には、仕事を休んだことで昇給が遅れた、退職を余儀なくされたなど、上記の計算式で求められる金額以外の損害を受けた方もいらっしゃるかもしれません。そのような損害は休業損害として認められるのか、迷っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここからは、実際の裁判例を基に、どのような損害が休業損害として認められたか、具体的な事例を5つご紹介します。

  1. 事故がなければ昇給していた会社員の事例
  2. 事故で休んだため雇止めになった派遣社員の事例
  3. パートとして働いている専業主婦の事例
  4. 事故のせいで留年し、就職が遅れた学生の事例
  5. 事故で営業できないが固定収入がかかった自営業の事例

(1)事故がなければ昇給していた会社員の事例

事故がなければ昇給していたことが立証できる場合、昇給が見込まれた金額も含めて休業損害が認められることがあります。

事故がなければ昇給していたことが認められるのは、「就業規則に定期昇給が記載されている」「同期の社員の昇給状況から、被害者の昇給も算出できる」などの場合です。

以下の裁判例では、同期入社の社員の給与を参考に、昇給を前提とした金額で休業損害を算定することが認められています。

事故当時、原告は32歳で銀行に勤務していた。原告と同期に入社した社員の給与収入の推移を鑑みて、毎年5%の上昇を前提とした推定年収で休業損害を算定することが認められた。

(東京地方裁判所 平成15年(ワ)第9539号 損害賠償請求事件 平成16年12月21日)

(2)事故で休んだため雇止めになった派遣社員の事例

派遣社員が事故で休業し、そのために雇止めになった場合はどうなるのでしょうか。

事故前に契約更新の予定があったことが立証できるなら、休業日数に加えて再就職するまでの期間も休業損害を請求できる場合があります。再就職するまでの期間の基礎日額は、事故前3ヵ月の収入から算定した金額とされました。

以下の裁判例では、事故によって契約が更新されなかったことが認められ、契約期間終了後の休業損害が認められています。

事故当時、原告は派遣社員として就労していた。契約期間満了時には更新が予定されていたが、事故による受傷のため更新されずに契約が終了した。契約期間中の欠勤及び有給休暇取得日の休業損害と、再就職するまでの期間の休業損害が認められた。

(京都地方裁判所 平成22年(ワ)第4285号 損害賠償本訴請求事件、平成22年(ワ)第4937号 損害賠償反訴請求事件 平成23年12月13日)

(3)パートとして働いている兼業主婦の事例

専業主婦の場合は、前述したとおり女性の平均賃金から基礎日額を算定します。

では、パートとして収入を得ている兼業主婦の方はどうなるのでしょうか。基本的には、兼業主婦の方は実収入と平均賃金を比べ、より高い金額を採用することとなります。

以下の裁判例では、平均賃金を基に休業損害を算定することが認められています。

事故当時、原告は53歳で、主婦として家事に従事するとともに、パートタイマーとして月額約8万円の収入を得ていた。休業損害については、平成8年の賃金センサスにおける50歳~54歳女性の平均賃金を基に算定することが認められた。

(名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)第2354号 損害賠償請求事件 平成11年4月28日)

(4)事故のせいで留年し、就職が遅れた学生の事例

学生の場合は、基本的には休業損害が認められません。とはいえ、事故のせいで留年して就業が遅れ、収入を失う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そのような場合は、休業損害が認められることがあります。基礎日額としては、被害者の性別や学歴などに応じた平均賃金や、内定が出ていた場合は内定先の給与推定額が用いられるでしょう。

以下の裁判例では、事故の影響で留年をしたため就業が遅れたことが認められ、休業損害が認められています。

原告は本来であれば留年せず平成8年4月から就業できたはずだったが、事故の影響で留年し、実際に職に就いたのは平成9年10月だった。その間1.5年分の休業損害を、賃金センサスの男性大卒の年齢別平均賃金を基に算定することが認められた。

(東京地方裁判所 平成10年(ワ)第11494号 損害賠償請求事件 平成12年12月12日)

(5)事故で営業できないが固定経費がかかった自営業の事例

自営業の場合は、事故で休業している間、収入が発生していないのに固定経費が必要となる場合があります。たとえば、家賃、人件費、租税公課などは、ケガが治ったあとに営業を再開することを見越すと、休業中も支払い続ける必要があるでしょう。

自営業の場合は、休業期間中の固定経費についても休業損害に加えられる場合があります。

以下の裁判例では、休業中も租税公課、修繕費、減価償却費などの固定経費が必要であることが認められました。結果として、所得と固定経費を合計した金額が休業損害として認められています。

原告はレンタルビデオ店を経営しており、固定経費として租税公課、修繕費、減価償却費、利子割引料、管理諸費、リース料、諸会費がかかっていた。所得と固定経費の合計額の過去3年分の平均を基に、休業損害を算定することが認められた。

(東京地方裁判所 平成19年(ワ)第21233号 損害賠償請求事件 平成21年10月27日)

なお、広告宣伝費や接待交際費などの変動費は、休業損害として認められないことが多いので注意しましょう。

休業損害が受け取れないケース|不労所得は原則認められない

ここまでは休業損害が受け取れるケースをご紹介してきましたが、逆に受け取れないケースもあります。

休業損害は交通事故のケガで行動が制限され、働けなくなったことにより失った収入を補償するものです。働いていなくとも得られる不労所得については認められないことが多いのです。

具体的には以下の例が挙げられますので、順に確認していきましょう。

  1. 家賃収入や株式配当などの不労所得者
  2. 年金受給者
  3. 生活保護受給者

(1)家賃収入や株式配当などの不労所得者

家賃収入や株式配当などの不労所得は、基本的に休業損害として認められません。

ただし、家賃収入を得ている方で、物件の管理業務も行っている方は、休業によって損害が発生したと認められる場合があります。

また、デイトレーダーとして株式配当を得ている方の休業損害が認められた裁判例もあります。

原告は、通院のため株式取引が物理的にできなくなった、事故以前のように株式市場の動向把握を毎日行うことができず取引手法の変更を余儀なくされたなど、事故によって株式取引に支障が生じた。株式相場が上昇していたこともあり、原告は事故に遭わなければさらに利益を得られていたと考えられる。よって、賃金センサスの男性学歴計の年齢別平均賃金を参考に、原告は350万円程度、株式取引に基づく利益が得られた蓋然性があると認められた。

(さいたま地方裁判所 平成28年(ワ)第1928号 損害賠償請求事件 令和元年5月7日)

加害者側の任意保険会社は、家賃収入や株式所得などの不労所得を得ている方は休業損害を認められないと主張することが多いでしょう。交通事故によって実際に損害を受けている場合は、休業損害が認められる場合もありますので、弁護士に相談することをおすすめします。

(2)年金受給者

年金は交通事故の影響に関わらず受け取れるお金なので、休業損害として認められません。

ただし、年金受給者かつ主婦の場合は、家事労働に従事していたとして休業損害が認められる場合があります。以下の裁判例では、事故当時75歳であった方が家事労働者として休業損害を認められています。

事故当時、原告は75歳で、夫と2人で生活する専業主婦だった。休業損害は、賃金センサスの女性の年齢別平均賃金を基に算定することが認められた。

(大阪地方裁判所 平成29年(ワ)第11017号 損害賠償請求事件 平成31年1月24日)

(3)生活保護受給者

生活保護についても、交通事故の影響に関わらず得られるお金なので、基本的に休業損害として認められません。

ただし、年金受給者と同様に、生活保護受給者かつ主婦の場合は、家事労働に従事していたとして休業損害が認められる場合があります。

このとき、休業損害を請求することで所得が生活保護の基準額を上回る可能性があることには注意が必要です。休業損害を得ることにより、生活保護の減額がされたり、不支給となったりする可能性があるのです。

休業損害を請求するときは弁護士に相談しよう

すでに解説したとおり、休業損害を算定するときに用いる基礎日額には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの基準があります。

加害者側の任意保険会社は、大抵は任意保険基準で被害者の休業損害を算定します。しかし、その金額には増額の余地があるのです。

たとえば、主婦の方が交通事故の被害に遭い、90日間家事ができなかったとします。その場合、自賠責基準と弁護士基準ではそれぞれ下記のように計算されます。

表:自賠責基準と弁護士基準の休業損害を比較

自賠責基準※弁護士基準
基礎日額6,100円10,573円
(3,859,400円÷365日)※※
90日休業した場合549,000円
(6,100円×90日)
951,570円
(10,573円×90日)

※2020年4月1日以降に発生した事故の場合
※※2021年の女性の平均賃金を用いた場合

弁護士基準で計算することで、402,570円の増額が見込めることがわかるのではないでしょうか。休業前の収入額が多い方や、休業日数が多い方は、増額される金額がさらに多くなることが予想されます。

また、そもそも加害者側の任意保険会社から休業損害を認められない場合もあります。

たとえば、被害者が70代の年金受給者かつ主婦である場合はどうでしょうか。この場合、加害者側の任意保険会社は被害者を年金受給者とみなして休業損害の支払いを拒否することが考えられます。

しかし、弁護士が介入し、被害者が家事労働者であったと交渉することで、休業損害が認められる可能性が出てくるのです。

加害者側の任意保険会社は、支払う金額を少しでも下げようとします。被害者本人が交渉してもなかなか応じてくれないことがあるかもしれません。その場合、法律の専門家である弁護士が交渉すれば、譲歩してくれる場合があるのです。

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また、休業損害だけではなく、慰謝料や後遺障害が残った場合の逸失利益などの損害項目についても、弁護士が交渉を行うことで増額を見込めるでしょう。

アトム法律事務所では、交通事故の被害に遭われた方からの法律相談を無料で行っています。

加害者側から提示された休業損害の金額が妥当か迷ったときは、まずはお気軽にご相談ください。アトム法律事務所には交通事故の実務に精通した弁護士が多数在籍しており、休業損害を含む示談金の増額実績も豊富です。被害者の方の状況に応じて適切なアドバイスやサポートを行わせていただきます。

相談予約は年中無休で受け付けています。交通事故の休業損害で悩んでいる方はぜひご連絡ください。

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監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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