交通事故の示談について解説|示談交渉の流れや示談金の計算方法

更新日:

think 21

新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。

示談とは「裁判ではなく当事者同士の話し合いによって争いを解決する手続き」のことを言います。

交通事故の被害者になったとき、多くの場合は相手方の保険会社と示談交渉をして示談金を請求することになります。しかし、ほとんどの交通事故の被害者の方は、示談交渉の経験があまりありません。

「示談金としてどんな内容を請求できるの?」

「相手方の任意保険会社が提示してきた金額が適切なのかわからないけど、合意してしまって大丈夫?」

など、不安に思うことが多いのではないでしょうか。

さらに、相手方の任意保険会社は示談交渉のプロです。被害者が示談についての知識や示談金の相場などをあらかじめ知っておかないと、被害者にとって不利な条件で示談がまとまってしまうかもしれません。

この記事では、交通事故の被害者の方に向けて、交通事故の示談の基礎知識や、示談交渉の流れ、示談金で請求できる内容や計算方法を詳しく解説します。

示談交渉の基礎知識

示談とは当事者同士の話し合いで問題を解決すること

示談とは、裁判ではなく当事者同士の話し合いによって民事上の争いを解決する手続きのことです。

交通事故が発生したとき、被害者は加害者に、事故によって被った損害の賠償を請求することができます。賠償問題の解決には裁判や調停、示談などの方法があります。このうち、裁判には多くの労力と時間がかかります。交通事故に関しては過去に多くの判例があることや、任意保険会社の対応が充実していることもあり、裁判を行わず示談で解決を目指す場合が多くなるのです。

交通事故の示談では、示談金の金額や過失割合などについて被害者と相手方の任意保険会社が協議することになります。

示談交渉で請求できる損害項目は?

示談交渉で相手方の任意保険会社に請求できる損害項目は、慰謝料や治療費など多岐にわたります。具体的な項目は、傷害事故か死亡事故かによって異なるので、それぞれ確認していきましょう。

傷害事故の場合

傷害事故の場合は、入通院慰謝料や治療関係費、休業損害などに加えて、後遺障害等級が認定されれば後遺障害慰謝料や逸失利益が請求できます。

表:傷害事故の場合に請求できる損害項目

入通院慰謝料事故でケガをしたことや入通院の必要が生じたことなどの精神的苦痛に対する補償
治療関係費治療費や入院費、看護料、通院交通費など、入通院に関する費用
休業損害事故の影響で仕事を休んだ場合に、事故の被害に遭わなければ得られたことが想定される利益
後遺障害慰謝料※事故で後遺障害を負った精神的苦痛に対する補償
逸失利益※労働能力が低下したことにより失った将来的な利益
その他将来的な介護費や装具の購入費学費など

※後遺障害等級が認定された場合

死亡事故の場合

死亡事故の場合は、事故で亡くなったことに対する慰謝料や、亡くならなければ得られたはずの逸失利益が請求できます。

また、事故発生から亡くなるまで時間が空いており、その間に治療や入院を行った場合は、入通院慰謝料や治療関係費も請求できます。

表:死亡事故の場合に請求できる損害項目

死亡慰謝料事故で亡くなった本人や周囲の者が受けた精神的苦痛に対する補償
死亡逸失利益事故で亡くならなければ得られたはずの将来的な利益
葬儀関係費用葬儀にまつわる費用
入通院慰謝料※事故でケガをしたことや入通院の必要が生じたことなどの精神的苦痛に対する補償
治療関係費※治療費や入院費、看護料、通院交通費など、入通院に関する費用
休業損害※事故の影響で仕事を休んだ場合に、事故の被害に遭わなければ得られたことが想定される利益

※事故後、亡くなるまでに治療や入院を行った場合

注意!示談の成立後、示談で決まった金額以外は請求できなくなる

示談交渉をする際に覚えておきたいことが、示談による合意には法的な拘束力が発生することです。

1度示談が成立すると、あとから合意した内容を撤回することは原則的にできません。

よって、示談交渉は内容をよく確認しながら進めることが大切です。内容によくわからない点や納得できない点があれば、安易に合意しないようにしましょう。

判断に迷った場合は、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

示談交渉を始める時期は?

示談交渉を始めるのは、損害額が算定できるようになってからになります。

損害額が算定できるようになる時期は、傷害事故と死亡事故で異なりますので、確認していきましょう。

傷害事故の場合

傷害事故の場合、示談交渉を始める時期は後遺障害が残った場合と残らなかった場合で異なります。

後遺障害が残らなかった場合は、入通院が終了し、交通事故によって負ったケガが完治した段階で示談交渉を始めることになります。入通院が終了した段階で、治療関係費や、入通院の期間に応じて算定される入通院慰謝料が算定できるようになるためです。

一方、後遺障害が残った場合は、後遺障害等級が認定されてから示談交渉を始めることになります。これは、認定された後遺障害の等級によって後遺障害慰謝料や逸失利益の算定が異なるためです。

交通事故の流れ

死亡事故の場合

死亡事故の場合は、葬儀が終了してから示談交渉を始めることになります。

死亡事故の場合、損害項目のほとんどは被害者が亡くなったのと同時に算定できます。しかし、葬儀費用だけは葬儀が終わるまで確定できません。よって、すべての項目が算定可能になる葬儀終了後に示談交渉を開始します。

示談交渉の流れ

ここまで示談に関する基礎知識をご紹介してきました。ここからは、実際に示談を行う際の手続きを確認していきましょう。

(1)示談交渉の準備をする

多くの場合では、相手方の任意保険会社から示談案が提示されます。まずは提示された示談案を確認し、損害賠償金の合計額、過失割合、既払金額、最終的に相手方の任意保険会社から支払われる金額を検討しましょう。

相手方の任意保険会社から提示された示談案に納得できるのであれば、示談成立です。納得できないのならば、交渉を行いましょう。

なお、相手方の任意保険会社から示談案が提示されない場合は、被害者が示談案を作成して相手方の保険会社と交渉を始めることも可能です。

(2)相手方と示談交渉を行う

示談案に不満があるのであれば、相手方の任意保険会社と示談交渉を行います。相手方の任意保険会社から示談案が提示されたのであれば、被害者側からも示談案を作成し、交渉に臨みましょう。

被害者が自身で示談案を作成するときは、損害項目ごとに金額を計算し、口頭ではなく書面で相手方の任意保険会社に提示しましょう。このとき、返答の期限をあらかじめ伝えておくと、返答が不必要に遅くなることを避けられます。

すでにお伝えしたとおり、一度示談が成立するとあとから撤回することはできません。示談案の確認や検討は慎重に行った方がよいでしょう。

双方が過失割合や示談金の金額などに合意すれば、示談成立にむけて、示談書を交わすことになります。

(3)示談成立

交渉がまとまったら、相手方の任意保険会社から以下のような示談書(免責証書)が送られてきます。

示談書(見本)
示談書(見本)

示談書の内容に誤りがないか確認し、問題ないようであれば署名・捺印をして保険会社保管分を返送します。

示談書が保険会社に到着してから数日後に、示談金から既払金を差し引いた金額が支払われ、すべてのやりとりが終了となります。

示談金の計算方法

示談金には3つの算定基準がある

ここからは示談金の計算方法について解説していきますが、解説する前に前提知識としてお伝えしておきたいことがあります。

それは、示談金の算定には以下の3つの基準があるということです。

表:慰謝料の3つの算定基準

自賠責基準自賠責保険が用いる基準。
被害者に補償される最低限の金額。
任意保険基準任意保険会社が用いる基準であり、各保険会社が独自で設定している。
自賠責基準とほぼ同じか、自賠責基準より少し高額な程度。
弁護士基準弁護士や裁判所が用いる基準であり、過去の判例を基にした金額。
3つの基準の中で最も高額で、法的にも適正な金額。
慰謝料の3つの算定基準

3つの基準の中で最も示談金が高額となるのは弁護士基準で算定した金額になります。

示談の際には相手方の任意保険会社からは任意保険基準で算定した金額が提示されますが、その金額には増額の余地があることを覚えておきましょう。

示談金の計算例

ここからは、示談金を弁護士基準で算定する場合、どのように計算するのか損害項目ごとにご紹介します。

例として、以下の条件で計算していくことにしましょう。

  • 交通事故によるケガで3ヵ月(90日)通院。入院はしなかった。
  • 被害者のケガの状態から、通院時に付き添いが必要な日が10日あった。
  • 被害者は会社員として働いていたが、事故のため60日間の休業を余儀なくされた。
  • 後遺障害は残らなかった。

入通院慰謝料

弁護士基準では、入通院慰謝料は下記の表を用いて算定します。

表:弁護士基準の入通院慰謝料(重傷)

重傷の慰謝料算定表
重傷の慰謝料算定表

表:弁護士基準の入通院慰謝料(軽傷)

軽症・むちうちの慰謝料算定表
軽症・むちうちの慰謝料算定表

上記のうち、「軽傷」の表はむちうちや打撲、かすり傷などの場合に使用するものです。今回は「重傷」の表を参照して計算することとします。

表の「通院」の月数と「入院」の月数が交わる箇所を確認しましょう。今回は通院3ヵ月、入院0ヵ月なので、入通院慰謝料として73万円を請求することになります。

治療関連費

治療費や通院交通費、診断書作成料などはかかった実費を請求することができます。

看護料は、弁護士基準では下記の金額が相場になっています。

表:弁護士基準の看護料相場

入院付添費1日あたり6,500円
通院付添費1日あたり3,300円
弁護士基準の看護料相場

今回の場合は10日間の通院付添いが必要であったため、3,300円×10日で33,000円を看護料として請求することができます。

休業損害

休業損害の金額は、「算定基礎日額×実際に休んだ日数」で計算します。

算定基礎日額は、弁護士基準では、被害者の立場(給与所得者、自営業者など)によって算定方法が異なります。今回の例では被害者は給与所得者ですので、算定基礎日額は「事故前3ヵ月分の給料の合計額÷出勤日数」で算定します。

事故前3ヵ月分の給料の合計額が97.5万円、出勤日数が65日とすると、算定基礎日額は975,000円÷65日で15,000円になります。実際に休んだ日数は60日ですので、15,000円×60日で900,000円を休業損害として請求することができます。

示談金の合計額

上記の入通院慰謝料、治療関連費、休業損害を合算して、示談金を算出します。

弁護士基準で計算したときの示談金の計算例

  • 入通院慰謝料
    • 730,000円(弁護士基準の入通院慰謝料算定表(重傷)から算定)
  • 治療関連費
    • 治療費
      • 1,500,000円(実費)
    • 通院交通費
      • 20,000円(実費)
    • 看護料
      • 1日あたり3,300円×10日=33,000円(通院付添費相場から算定)
    • 診断書作成料
      • 10,000円(実費)
  • 休業損害
    • 1日あたり15,000円×60日=900,000円(算定基礎日額×休業日数で算定)
  • 合計
    • 3,193,000円

示談で解決しないときは?

交通事故の多くは被害者と相手方の任意保険会社の示談で解決されます。

しかし、お互いの主張が平行線となり示談での解決が難しくなる場合もあります。示談での解決が望めなくなったときは、ADR機関を利用して調停を行ったり、裁判を提起したりすることで解決を目指しましょう。

ADR機関を利用して調停を行う

ADR機関とは「裁判所以外で、第三者が仲裁などを行う場所」のことです。

裁判は解決までに時間や労力がかかりますが、ADR機関を利用して調停を行えば比較的短時間での解決を目指せます。

交通事故に関するADR機関には、「公益財団法人交通事故紛争処理センター」や「公益財団法人日弁連交通事故相談センター」などがあります。交通事故に関するADR機関では、多くの場合は弁護士が第三者として仲裁してくれます。交通事故に関するADR機関はいずれも無料で利用できるので、示談での解決が難しいと判断したときは相談してみるとよいでしょう。

裁判を起こす

裁判所に判断を仰ぐことでも、解決を目指すことができます。

しかし、裁判は示談や調停に比べてはるかに時間や労力がかかります。また、裁判の手続きはとても複雑で、被害者が独力で行うのは困難と言えるでしょう。大抵は弁護士に依頼することになり、弁護士費用が必要になります。事前に弁護士事務所の無料相談を活用して弁護士費用の見積もりをとり、費用倒れにならないか検討するようにしましょう。

示談交渉を弁護士に依頼するメリット

ここまで示談に関する知識や示談交渉の流れをお伝えしてきました。

示談交渉は、裁判ほどではないものの労力がかかり、被害者の負担も大きくなります。また、ほとんどの被害者の方は示談交渉に慣れていないため、示談交渉の中で判断に迷う場面もあるかと思います。

示談交渉をプロである弁護士に任せることで、負担や不安が軽減するのではないでしょうか。

ここでは、交通事故に詳しい弁護士に示談交渉を依頼するメリットを3つお伝えします。

(1)相手方との交渉を任せられる

相手方の任意保険会社は交通事故に関する示談交渉に慣れています。対して被害者の方は示談交渉に慣れておらず、「保険会社の主張を鵜呑みにしてしまう」「相手方が提示した示談案に納得がいかなくても、うまく主張できない」など、示談交渉のなかでうまく立ち回れずもどかしく思うことがあるかもしれません。

弁護士に示談交渉を依頼することで、示談交渉のストレスから解放されます。

交通事故のあとは、被害者はケガの治療、社会復帰などやるべきことが多くあります。交通事故に詳しい弁護士に示談交渉を任せることで、示談交渉のストレスから解放され、安心して治療や社会復帰に集中できるようになるでしょう。

(2)短期間での解決が期待できる

示談交渉でなかなか当事者同士が納得できず、示談成立までに時間がかかることがあります。示談成立までに時間がかかれば、その分示談金が支払われるまで待たなければならなくなります。

示談交渉がなかなか合意に至れない原因として、示談金の相場がわからないため相手方の提示した金額に納得できない、示談金の金額や過失割合などで相手方の主張のどの部分が不当か判断できないなどが挙げられます。

交通事故の実績を豊富に持つ弁護士であれば、示談金の相場を熟知しています。また、相手方の主張に不当な部分があるときは、すぐに指摘することができるでしょう。その結果、示談交渉に無駄に時間を費やさず、短期間で解決することが期待できます。

また、示談交渉がこじれて裁判となった場合は、解決まで長い時間がかかることが想定されます。弁護士に依頼することで、示談が成立する可能性が上がり、裁判までもつれこむことが減るでしょう。

(3)示談金が増額される可能性がある

すでにお伝えしたとおり、示談金の算定には3つの基準があります。3つの基準のうち、最も高額なのは弁護士基準です。

相手方の任意保険会社は、ほとんどの場合は任意保険基準で算定した示談金を提示してきます。弁護士が示談交渉を行うことで、弁護士基準で算定した示談金を請求できるようになり、示談金の増額が見込めるでしょう。

また、弁護士に相談することで、示談金の請求漏れがないか確認できます。被害者が損害として請求できると思っていなかった項目が請求できる可能性もありますので、示談金の算定に迷ったときは弁護士に相談してみることをおすすめします。

まとめ

  • 示談とは、当事者同士の話し合いによって民事上の争いを解決する手続きのこと
  • 1度示談が成立すると、あとから撤回することは原則的にできない
  • 示談金として、慰謝料や治療関連費、休業損害、逸失利益などが請求できる
  • 示談金には3つの算定基準があり、弁護士基準が最も高額

ここまでお伝えしてきたとおり、示談交渉を弁護士に依頼することで、相手方の任意保険会社との交渉を任せられる、示談金の増額が見込めるなどのメリットが得られます。

アトム法律事務所には、交通事故の解決実績が豊富な弁護士が多数在籍しています。

アトム法律事務所は電話やLINEでの無料相談も行っており、相談予約の受付は24時間365日対応しています。交通事故の示談で迷っている方は、まずはお気軽にお問合せください。

無料法律相談ご希望される方はこちら

無料法律相談はこちら

santenset law
シェアする

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

あわせて読みたい記事